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現代音楽からTV・映画の劇伴や舞台・イベントなどの作曲や編曲etc.

Column 2010年「童謡詩劇うずら創作ノート」

Vol.4 最初の一歩 アイデア会議

 2008年2月の実行委員会での初顔合わせの後、早速制作スタッフの人選に入った。なにせ初めてオペラを作曲する人間に、台本や演出、舞台周りなどの一切を任せるというのであるからプレッシャーどころではなく、最初から苦難の道は覚悟の上であった。

 「新しい形の日本語の歌の舞台」
 これが大きなテーマであるが、まずは台本である。当初、実行委員会からは作曲家が台本を書いてはどうかという提案もあったが、私にはそんな文才は微塵もない。ではどうするか? ここで自分の畑、テレビや映画の世界での台本作りの方法を試みてみようと考えた。それは、複数の関係者、本作では〈作曲家〉〈台本作者〉〈演出家〉〈指揮者〉が最初のアイデア作りの段階から参加する、所謂制作会議のような形である。テレビドラマなどでは、まずプロデューサーが「こんな番組を作りたい」等の構想を放送作家に伝え、ある程度のプロット(構成)が上がった段階で、関係者が互いに意見を述べ合い筋を立てて行くのであるが、今回のプロジェクトもその形を取った。

 そうなると最も肝心なのがスタッフ人選である。ここで新作成功の8割りが決まると言っても過言ではないだろう。演出や舞台周りは、通常のオペラ制作を請け負っている制作会社ではなく、敢えて演劇界の、しかも新劇のパイオニアである青年座にお願いした。私自身もどんな作品になるのか分からないままスタッフを決めるのは大博打のようにも見えるが、これまで青年座が新作を作り続け、そのスタッフの能力の高さは誰もが認めるところであるし、演出家もオペラ演出の方より、むしろ演劇的な演出をオペラの中で活かせれば、日本語がより音楽の中で存在感を表すのではないかと考えたからである。この様な企図の中、2006年青年座公演の「ブンナよ、木からおりてこい」でご一緒した演出家・黒岩亮氏に演出をお願いすることとなった。

 指揮者は、オペラの中では演奏者側の総責任者と言える立場である。この人選には、これまで現代オペラの現場経験も有り、30年来の友人でもある栗田博文氏にお願いした。現場での作曲家のワガママを100%理解実践してくれ、且つオペラと言う特殊な現場を仕切って頂くことになるのだが、新作と言う、それまで形のない音楽をコツコツと作り上げて行くには、信頼関係と意志の疎通が最も重要なのである。

 そして、台本作家であるが、これには最も悩んだ。「清水かつら」という題材を普遍的な作品として描き、かつ日本語と歌との関係に関心を持ち、日本語オペラの問題意識のある作家……… これが全く見当もつけられなかった。そんな人選で悩んでいる時、ある仕事の打ち合わせで音楽評論家の片山杜秀氏にこのプロジェクトの話を四方山話の中でお話した。片山氏は、音楽評論のみならず、時事問題や政治思想の研究、とりわけ日本語と音楽と社会の問題についても深い見識を持っている貴重な評論家である。話の中で、実はオペラの台本を書くのが若い頃からの夢であり、是非自分が書いてみたい、との意志を頂けた。いつも何本もの原稿締切りを抱えている売れっ子の片山氏が、自ら名乗り出てくれたのは渡りに舟。ただ通常の台本作りの過程とは違い、関係者がプロット制作から始める形であることを了承して頂き、これで第一歩となる台本作りのスタッフが決まった。

 それから約1ヶ月後の4月、「和光市民オペラ新作案」と題して最初のアイデア会議が、初台の東京フィルハーモニー交響楽団の会議室で行われた。メンバーは、片山氏、黒岩氏、栗田氏、実行委員会から榑松氏、和光文化振興公社から大泉氏と出牛氏、音楽アシスタントの福嶋氏、そして私の8名の参加者で、私が用意したプロットをもとにいろいろなアイデアが出された。参考までにそのプロットを記しておく。

【形態について】
・清水かつらを主人公とは限定せず、自由な発想のもと台本作成にあたる。
・明治、大正、昭和の童謡を中心とした新しい創作舞台を目指す。
・音楽と芝居のバランスを考慮した作品。
・多くの再演を目指し、再演しやすい仕様にする。
・学校公演、または地元アマチュア団体も継続して再演できる形態。

【内容について】
・台本の骨子は、作曲家・台本作家・演出家・指揮者の4名で協議しプロットを作る。
・上記のアイデアフラッシュ会を5~6月に4回程度行う。
・アイデアフラッシュを経て台本作成に着手、その後音楽的検討を経て完成とする。
・清水かつらを「狂言回し」的な位置とする。例えば舞台俳優。
・メジャーな主役級は2名、他3名程度のキャスト。
・子供の主役、もしくは主要な役設定。
・童謡を7~8曲程度は挿入する。
・構成は、1幕で70分~80分程度。(子供の観賞や舞台装置の予算を考慮して)
・永きに渡って愛唱され続けてきた童謡の価値を見いだす内容。
・日本語を歌・芝居共しっかりと伝える。
・思想的、形而上的、風刺的エッセンスを盛り込む。(普遍性を持たせる)
・様式題目は「オペラ」ではなく別なものにする。
 例えば、童謡詩劇 童謡物語 謡劇 詩劇

 多忙にも関わらず関係者のご協力で、月に1,2回のペースでこのアイデア会議は開催された。当初の私の目論見では、2,3ヶ月のアイデア会議の後、台本書きに入り、1年位で台本完成のスケジュールを考えていた。

しかし、実際には台本の完成に2年を費やすこととなった。