♪Kaoru-Wada.com 和田薫OFFICIAL WEBSITE♪

現代音楽からTV・映画の劇伴や舞台・イベントなどの作曲や編曲etc.

Column 2002年「ドイツ&ノルウェー旅日記」

9月28日(土)ようやく晴れ

朝目が覚めて、窓の外を見ると快晴! やった?!ようやく晴れだー!!今日は、午後からオーケストラの鈴木さんが市内案内をしてくれます。なんというナイスタイミング! 昨日までのドンヨリ雲がウソのようです。

ドイツに来てから、規則正しい生活が続いている僕ら。シャワーと朝食を段取り良く済ませて、午前中に近くのネットカフェへ。ホームページ等いろいろとチェックを済ませました。こうしてみると、まさに時代はネット時代なんだなと感じます。遠くドイツから、リアルタイムで日本にアクセスでき、しかも日本語で書き込み入力(ちょっと大変だけどね)できるなんて、夢のよう。

数年前に、録音でロシアに行った時、海外で使える携帯電話をレンタルしたのだけれど、この時も感動したなぁ。電話事情の悪いロシアで、なんのストレスもなく日本へ通話できるのが、これまた夢のようでした。今はさらにインターネットです。なんだか、1万キロ以上も離れている気がしないなぁ。16年前に放浪していたときは、ホント日本は『かの地』って感じでしたからね。ありがたい。

12時半に、ホテルのロビーで鈴木さんと待ち合わせ、早速ニンヘェンブルク城へ行きました。ウィーンのシェーンブル宮殿に似たこのお城は、17世紀から19世紀に渡って作られ、その建物と庭園は眩いばかりの優雅さ。庭園は市民の憩いの場として解放され、自由に行き来できます。造園とは言え、ヨーロッパ人は本当に自然を生活の中に取り入れるのがうまい。ドイツは特にエコ意識が強い国でもあります。まず、どこに行っても紙コップや紙の皿がない。全部リサイクル素材なのです。自然を壊さない、共存するというのが、彼らの考えの原点なのでしょう。確かに、昨日のドイツ博物館で見た炭坑のジオラマや、リール工業地帯に代表されるドイツの工業技術は、19世紀から20世紀に渡る世界のトップ技術でした。飛行機やエンジン・原子力など、今や僕らの生活になくてはならない基盤がこの地で開発されてきました。しかし、今は生活環境の自然への共存が、もっと率先して行われているのです。でも、それはこのニンヘェンブルク城を見るように、元々ドイツ人にあったものなんでしょう。無理のない、肩肘張らないエコ意識が、すでに何百年も前から根付いていたんだな思います。

そんなことを徒然に思いながら、市電に乗って、次ぎはミュンヘンっ子の胃袋といわれるビクトリエンマルクトへ。ここは、肉・魚・野菜に果物等など、いろんな出店がひしめき合っている市場です。土曜日ということもあってか、お昼過ぎなのに凄い人出。いろんなお店をひやかしながら、鈴木さんお勧めのピクルス(西洋風きゅうりの酢漬け?)のお店へ。一本単位で売ってくれて、その場で立ち食いをするのです。ファーストフード感覚。スッパイかなと思ったのですが、意外にそれ程でもなく食べやすい。大柄なドイツ人に混ざって、人だかりの中、きゅうりをパクつきます。

ドイツでは、ソーセージの付け合せに、ザワ?クラフトというキャベツの酢漬けのようなお惣菜が付いてきます。ドイツ人はこのような酸味のある食べ物も好みなんだなぁ。ただ、鈴木さんによれば、ヨーロッパの野菜は、加工しないと硬かったりマズクて食べられないから、このような料理法が発展したのだということでした。土地土地に合わせていろいろと考えるものだなぁ、と感心。

その後、市内を歩き、ミュンヘンの州立音楽学校を見学に。この建物は、元々ナチスの本拠地だったらしく、ギリシア風の建物で、威圧感を感じるほど堂々としたものでした。でも、一歩中に入れば、そこは音楽学校。あちこちから、ピアノを練習する音が聞こえてきます。なんだか懐かしい雰囲気。ここから、未来の音楽家が巣立っていくんだなぁ、と思いながら大理石でできた廊下を、静かに歩いて行きます。おお、上から下まで全部大理石だ。さすが元ナチスの本拠地。変な感心をしてしまった。

音楽学校をあとにして、散歩しながらホテルへ戻ります。ミュンヘンは、そんなに大きくない街です。市電やバス・地下鉄も発達していますが、歩いて見て回るのも充分可能な大きさなのです。日頃、全くと言って良いほど歩かない僕ですが、こうして毎日歩くと、体の調子がイイ。快食快便。天気の良い日にこうしてノンビリ歩くのは良いものですね。東京での締め切りの毎日がウソのよう。こんなんで、帰国してまた東京の生活に戻れるのかしら…。

すっかりお世話になった鈴木さんに、充分なお礼も言えないまま、次の予定があるのでと、ホテル前で別れます。ドイツに来て、もう30年以上になる鈴木さんは、バイエルン放送響では終身楽員になっているらしい。既にオケの中では古カブです。いろいろなドイツの音楽事情やオーケストラの状況などを教えていただきましたが、本場ドイツでも、音楽家の環境は決して良いものではないようです。若い人達のクラシック離れへの懸念や、啓蒙の意図もあって、今回のような「ヤングピープル・コンサート」をはじめとするいろいろな活動をやっているとか。鈴木さんは、日本から「題名のない音楽会」のビデオを友人に送ってもらい、いろいろ研究をし、ドイツ版の「題名?」を作りたいともおっしゃっていました。僕も、偶然とは言え、この番組に携わっているスタッフの一人として、何かお手伝いできればと思いました。 オーケストラの音楽は、取っ掛かりは難しいように思われがちですが(ドイツでもそのようです)、クラシックだけでなく映画音楽・ポップス等など、一度好きになれば一生の友達になれる宝物なのです。そういうキッカケ作りのお手伝いができれば嬉しい。

さて、今日のメインイベントはもうひとつ。バイエルン州立歌劇場での「エレクトラ」。ミュンヘンに来てオペラを観ないわけにはいかない。しかも、R.シュトラウスの「エレクトラ」。日本じゃめったに公演される演目じゃないから、これは希少価値。大体この作品、オーケストラも4管編成(ホルンなんて8本!)で、100人近い楽員がオケピットに入って演奏するのです。これは壮絶。期待に胸を膨らませ、公演30分前には歌劇場へ到着。パルテノン宮殿のような作りの入り口から入り、3階席の中央最前列の席に着席。まあ、我ながら良くこんなイイ席が取れたものだと、座ってから感心しました。客席は満席、4階以上の後ろには立見もいるほどです。開演前まで、うんぬんと母親に「エレクトラ」のあらすじを説明し、あとは眼下のゴージャスなお客様方をウォッチング。さすがですね、みなさん。タキシードにイブニングドレス。絵に描いたように紳士淑女がご着席なさってます。歌劇場のもうひとつの側面は、社交場でもあるわけで、開演前までの時間を楽しそうにオシャベリしてます。そんなザワザワとした雰囲気の中、オーケストラの楽員たちがピットに入ってきて着席。しばらくして、拍手を受けながら指揮者も登場。

さぁ、開演。ジャン!

おお、やはりウマイ!当たり前だけど、つい感心してしまう。オペラのオーケストラって、正直言ってあまり上手いところがないんですよ。その理由は、ここでは割愛しますけど、このバイエルン州立歌劇場のオーケストラは凄い。しかも、R.シュトラウスの派手なオーケストレーション&大編成だから、最初から目(耳?)を皿のようにして(?)聴きました。タイトルロールのエレクトラを演じるGabriele Schnaut女史をはじめ、歌手陣も素晴らしい。演出・装置も、ドイツらしくモダンな中に観念的な意図のある出来映えで、あっという間の2時間でした。初オペラ体験(初めてがバイエルンとは贅沢?!)の母親も、感動していたようです。期待はしていたものの、それ以上の好演で大満足。

それにしても、シュトラウスは派手にオケを鳴らすなぁ。でも、それが歌い手の邪魔をするわけではなく、ドラマをより興奮へと導いていく。やはり、オペラというものをトコトン知っているんだなぁ。劇伴の仕事をしている僕としても、勉強になるところが多々ありました。

火照った顔に夜風が気持ち良く、今日の演奏の感想を話しながらホテルへ。明日は、朝からミュンヘン・フィルのコンサートだ。今日も早く寝なくっちゃ。

おっと、その前にビールね。