犬夜叉と共に歩んだ10年
2000年秋に放送を開始した「犬夜叉」も、昨年秋からスタートした「犬夜叉 完結編」の最終話を迎えるにあたって10年の幕を閉じることとなます。ちょうどホームページを立ち上げたのも2000年秋からで、この10年という歳月の流れの早さと重さをひしひしと感じています。
思えば、僕にとってこんなにスタッフ・キャストの繋がりが深かった作品はなかったと思います。アフレコにも良く行ったし、その後の飲み会にも勿論参加。夏は南の島へみんなと旅行へ行き、冬は僕の実家の下関の割烹旅館でふぐを食べる。前シリーズの時は、引っ越したばかりの僕の家でよくギョーザパーティをしました。
そんな思い入れの強い犬夜叉ですが、2000年にスタートする際、この作品を担当させて頂くにあたり僕の中では壮大な計画(希望)が実はありました。それまでにも様々なアニメや実写映画で邦楽器を劇伴音楽の中に取り入れてきていたのですが、この犬夜叉ではメインに関連するものは全て邦楽器を絡めようと思っていたのでした。それまで本格的に邦楽器を使ったアニメはなく、あったとしてもシンセ音やちょっとした味付け程度でした。
ピアノやオーケストラなど、西洋音楽はいろんな機会で聴いたりすることは出来ますが、意外と僕らの音、日本の音に関してはあまりにも無関心でいたように僕はずっと思っていました。それにはいろいろな問題があるのですが、一般の皆さんが耳にすることの多い劇伴、その中でもアニメは子供達が耳にすることが多いメディアです。そこにホンモノの音で聴いて欲しい、出来れば邦楽器の良さを味わって欲しいというのが、僕の企図でした。
その願いはこの10年で大きく実を結びました。今や犬夜叉の中では篠笛や琵琶や箏は欠かすことが出来ない音ですし、僕のところにも多くの方から「犬夜叉を見て笛を習い出しました」とか「お箏で犬夜叉を弾いています」というお便りを沢山頂きました。
そしてその波は、鬼神ブログにも書きましたが、ドイツでのコンサートの際、主催者側から犬夜叉の音楽をやって欲しいとか、津軽三味線の曲をやって欲しいというリクエストを頂き、日本だけでなく、犬夜叉を通じて世界で日本の音が聴かれていることを作曲者として嬉しく、そして誇りに思ったことでした。
昨年秋から「犬夜叉完結編」がスタートし、多くの方々から新しい音楽はないのかというお便りを頂きました。実は当初完結編では前シリーズで書いた100曲以上の音楽から選曲でいくというお話でした。これは完結編をスタートするにあたってのいろいろな条件や大人の事情もあって、新たに音楽録音をするのが厳しい状況だったわけです。多分、従来の作品でしたら、それはそうで仕方がないと思ったでしょうが、原作のあの感動のラスト、そして多くの皆様からの新録音への希望が僕の背中を押してくれました。
「録音かかる費用は全部僕の方で都合付けますから、新曲使いませんか?」
と、アニメ犬夜叉の生みの親であるプロデューサーの諏訪さんにお話しました。これだけ作品への絆の深い犬夜叉の最後に、選曲ではなく有終の美を飾りたいという気持ちは、スタッフみんなの気持ちでもありました。讀売テレビ・小学館・サンライズ・エイベックス等々関係各社がいろいろと調整してくれて、25話に2曲、そして最終話をすべて新録音でやろうということになったのが、昨年の暮れの頃でしょうか。
2月17日13時、いつものアバコスタジオで犬夜叉の最後の録音が始まりました。演奏者はのべ48名。コントロールルームも25名を越すスタッフとキャストの皆さんが見学に来てくれて、スタジオは熱気ムンムンの状態でした。
「5年ぶりの犬夜叉の録音です。そしてこれが最後の録音です。」
とオーケストラの皆さんに挨拶をして、いよいよ録音のスタートです。
順調に録音は進み、16時からは笛・琵琶・箏の邦楽器のダビング。そしてその後に僕のピアノと津軽三味線のダビングをしました。なんと録音でピアノを弾くのは1年ぶり! 津軽三味線は前回の映画「紅蓮の蓬莱島」の録音以来だったので5年ぶり!! もうかなりテイクを重ねる羽目になりましたが、納得がいくまで録音をしました。
10年間も犬夜叉という作品に関われて、本当に幸せだったと実感しています。純音楽と劇伴音楽という2つの音楽世界で活動を続ける僕にとって、犬夜叉という作品は最もその二つが融合した作品でした。これは僕にとって大きな財産であり、これからの音楽活動の指標にもなるでしょう。
最後に、スタッフとキャストのみなさん、讀売テレビ・小学館・サンライズ・エイベックスをはじめとする関係者の皆様、そして多くの犬夜叉ファンのみなさん、本当にこの10年応援して頂きありがとうございました!
そして、ありがとう! 犬夜叉!!